浦潮だより:ニコライ2世とシベリア鉄道

令和7年1月22日
ロマノフ朝300周年記念ファベルジェ

浦潮だより:ニコライ2世とシベリア鉄道

令和7年1月22日

 
着任後まもない頃、アルセーニエフ博物館の「ファベルジェ」特別展を鑑賞しました。ファベルジェとは、ロシア帝政時代、イースター・エッグの形をした宝飾品で有名になった工房で、現在も制作活動を行っています。この特別展では、ロシア各地の博物館から集められた帝政時代やソ連時代の宝飾品が展示されていました。特に目を惹いたのは、1913年にロマノフ王朝300周年を記念してニコライ2世に贈られたイースター・エッグです。帝政の絶頂期をうかがわせる豪華絢爛な作品に感銘を受けつつ、そのわずか4年後にはロシア革命が起こったことに思いを巡らせました。

 

凱旋門と黄金橋
かつてロシア革命史を学んだ者として、最後の皇帝ニコライ2世にまつわる文化財には、まるで砂鉄が磁石に引き寄せられるように興味を覚えます。ちなみにウラジオストクには、ニコライ2世が皇太子時代の1891年に訪問したことを記念する凱旋門があります。若きニコライ皇太子は、訪日の後、シベリア鉄道の極東地区起工式典に出席したのでした。オリジナルの凱旋門はソ連時代に取り壊されてしまいましたが、当時の写真に基づいて、2003年に復元されたものです。今も、シベリア鉄道の始発となるウラジオストク駅には、ニコライ2世の肖像画が飾られています。
ハバロフスク:アムール川に沈む夕陽
その憧れのシベリア鉄道に乗って、年始の休暇にハバロフスクまで旅しました。行きはモスクワまで7日間かけて走る「ロシア」号、帰りはハバロフスク・ウラジオストク間で人気の「オケアン」号を利用しました。思ったより揺れましたが、特に復路、二人一部屋の一等車には感激しました。夕食は前菜とメインが2種類から選べ、ワインの小瓶とともに、茶目っ気のある車掌さんが部屋まで運んでくれます。ベッドには個人用スクリーンがあり、ロシア語の映画や音楽が思う存分楽しめるようになっていました。もっとも、私は旅の疲れで食後早々に眠りに落ちてしまいましたが。
与謝野晶子の歌碑
シベリア鉄道と言えば、極東連邦大学近くの公園内に、与謝野晶子の歌碑「旅に立つ」があります。1912年、パリにいた夫の与謝野鉄幹に会うために、ウラジオストク駅から出発するに際して詠んだものだそうです。当時8人いた子供を日本に残して、単身でパリに向かったのだと聞きました。心の中で赤く燃える炎が見えるような詩が日本語とロシア語訳で石碑に刻まれ、有志の方々の協力でいつも美しく保たれています。
 
旅に立つ
 
いざ、天の日は我がために
金の車をきしらせよ
颶風(ぐふう)の羽は東より
いざ、こころよく我を追へ。
 
黄泉の底まで、なきながら、
頼む男を尋ねたる、
その昔にもえや劣る。
女の恋のせつなさよ。
 
晶子や物に狂ふらん、
燃ゆる我が火を抱きながら、
天がけりゆく、西へ行く、
巴里の君へ逢ひに行く。