浦潮だより:ナマコと高麗人参

令和7年6月20日
魚屋で販売中のナマコ

浦潮だより:ナマコと高麗人参

 令和7年6月20日

かつてウラジオストクは、中国語では「海参崴」(ハイシェンウェイ)と呼ばれました。ナマコ(海参:ハイシェン)の丘という意味だそうです。実際、今でもナマコが当地の名産品で、レストランのメニューでもよく見かけます。その昔、この地にロシア人が初めて入ってきた時、金角湾のほとりにはわずか3カ所に中国人の小屋があり、漁期にだけ中国人ナマコ漁師がそこに住んでいたそうです。今日、ウラジオストクには、なんと世界で唯一と言われる「ナマコ博物館」があります。

もう一つのウラジオ名物は、高麗人参です。そしてお察しのとおり、当地には「高麗人参博物館」もあります。先日、その博物館を訪ねてみました。高麗人参の種子から成長過程、森で高麗人参のある場所に現地の住民がどのような印をつけていたかといったことが詳細に展示されていて、高麗人参に注ぐ深い愛情と研究心に圧倒されました。
 
ところで、日本語でナマコは「海鼠」(海のネズミ)と書きますが、なぜ中国語では「海参」なのか。これについては、高麗人参もナマコも「不老長寿、万病に効く」とされるため、山で採れる「人参」から、海で採れる「海参」が連想されたという説があるようです。どちらも乾燥加工して中華市場で珍重されました。二大珍味の特産地だったウラジオストクと中国の深いご縁が窺えます。
 
展望台のデート
現在では、スポーツ湾の遊歩道で多くの中国人観光客が楽しそうに闊歩する様子を目にしますが、この遊歩道の基礎とその近くに立つディナモ・スタジアムは日本人抑留者が築いたものだそうです。そこから映画館「オケアン」の方角へ上っていく坂道の石垣と展望台も日本人抑留者が作りました。展望台から眺めるアムール湾は美しく、若者達のデートスポットになっています。
 
 
香月泰男のポートレート 
一瞬一生の石碑 
ちなみに、私の伯父の従兄弟に、香月泰男という画家がおりました。シベリア抑留を経験し、黒を基調とする「シベリア・シリーズ」という作品で知られています。先日、山口県の三隅にある香月泰男美術館を訪ねてきました。三隅は、山間の豊かな自然に囲まれた香月の故郷です。2016年に安倍総理とプーチン大統領が会談した長門温泉の大谷山荘から、車で30分ほどのところにあります。私が訪ねた時の展示は、戦前に描かれた明るい色彩の絵画と、抑留から戻った後にガラクタ素材から手ひねりで作った子供向けのオブジェが中心でした。観ていて、じんわりと心の温まる作風です。美術館の正面には、香月の書による「一瞬一生」という石碑があります。彼は「一瞬に一生をかけることもある。一生が一瞬に思える時があるだろう。」という言葉を残しました。長い苦難の後にようやく故郷に戻り、平穏な日常を愛しみながら創作を続けた香月の心の内に思いを馳せました。