浦潮だより:剣道
令和7年7月10日

浦潮だより:剣道
令和7年7月10日
6月、当館の管轄地域の一つ、マガダン州を初めて訪れました。その際、全く予期せぬことに、約40年ぶりに竹刀を振ることになりました。マガダン剣道クラブの稽古を見学に行くと、リーダーのヴォルジマルス・カルクリンシュ氏が私のために道着と袴を用意していて、「総領事は剣道経験者と聞いています。折角の機会ですから是非ご指導願います。」と頼まれたのです。自主練習を重ねてきたメンバーの真剣な目を見て、断るわけにはいきませんでした。
振り返れば、9歳で父の勤務地だったドイツ・デュッセルドルフ市から山口県に戻った私は、「ドイツ人が来た!」とからかわれ、なかなか友達ができなかったので、少年剣友会に入りました。その剣友会での一年上の先輩が、今や剣道八段となって山口県の剣道界を背負っておられます。優れた才能を持つ仲間に囲まれた幸運な環境でした。
そのおかげで、14歳の時には秋の県大会・剣道団体戦で優勝も経験しましたが、その頃から剣道部の同級生にどうしても勝てなくなりました。そこで、「自分の才能では剣道で生きていけない」と考え、受験勉強に集中するようになりました。進学した京都の高校では、「県大会で優勝した奴がいる」と噂が既に広まっていて、やむなく剣道部に入りましたが、地方から出てきた私は授業について行くのがやっとです。結局、「剣道と勉強の両立は無理です。」といって退部しました。親身になって慰留してくださった監督や同級生には申し訳ないことでした。

それから40年。竹刀を握りたいとは一度も思いませんでした。「才能がない」とか「勉強が忙しい」というのは単なる言い訳だったのではないかと、自分を責めていたのかもしれません。この度、久しぶりに竹刀を握り、稽古が楽しかった頃のことを思い出しました。不思議なことに、竹刀の使い方は体が覚えています。この機会を与えてくださったマガダン剣道クラブの各位に感謝しています。


その翌日、日本文化愛好団体「北の森」が主催する茶道と習字の体験会がありました。その場をお借りして、マガダンにある北東国立大学で8年間にわたって日本語を教えてこられた秋庭大輔(あきば・だいすけ)先生の功績を称える在外公館長表彰を行いました。日本文化に関心のある40人ほどの人々が集まり、習字体験の時間になると会場の熱気で息苦しいほどでした。最後に、一人の女子学生が「記念にどうぞ。私の夢です。」といって満面の笑顔で習字作品をプレゼントしてくれました。丁寧な文字で「食べ放題」と書かれています!
初心を忘れず日本語の勉強を続けることで、いつの日か、彼女の夢が叶うよう願っています。
初心を忘れず日本語の勉強を続けることで、いつの日か、彼女の夢が叶うよう願っています。