浦潮だより:廃墟探訪

令和7年11月27日

浦潮だより:廃墟探訪

 令和7年11月27日

子供の頃、神奈川県逗子市の山中にある社宅に住んでいた時、母に連れられて、どんぐりを拾いながら裏山を散歩するのが好きでした。周辺にはまだ防空壕が残っていました。危険なので中に入ったことはありませんが、穴奥の暗闇から這い出てくる戦時の空気感に好奇心をそそられたものでした。
さて、服部倫卓(はっとり みちたか)氏は、著書『不思議の国ベラルーシ:ナショナリズムから遠く離れて』の中で、ベラルーシでの廃墟巡りの魅力について書いておられます。残念ながら、私はベラルーシ勤務時に車を持たなかったため、服部先生のような廃墟探訪はできませんでしたが、鉄道やバス、マルシュルートカ(乗り合いのミニバス)を使って、ブレスト、ビテプスク、グロドノといった地方都市を訪ねました。夥しい数の弾痕が残る壁、帝政ロシア時代やソ連時代の老朽化した建物などが、長い歴史を物語っていました。
 


ブレスト:弾痕の残る壁


グロドノ:中世の教会


ビテプスク:画家レーピンの家博物館


ビテプスク:画家シャガールが幼少期を過ごした家
 

当時、チェルノブイリ原発周辺では、廃墟ツアーに外国人旅行客の人気が高まっていました。チェルノブイリの廃墟の写真集を眺めると、時が止まったように人間の生活の痕跡が残っている一方、野生動物や雑草などの自然がそれを覆い隠さんばかりの勢いです。深刻な放射能被害を受けたベラルーシ側にも、ホイニキという立ち入り制限地区があります。特別な許可を取れば視察できるのですが、私自身は訪ねる機会を逃してしまい、今も残念に思っています。
 
さて、ウラジオストクでは、総領事公邸の近くに2つの廃屋があります。この1年の間に次第に窓が割れ、柱が朽ちて、廃墟感が増しています。一方は道路沿いに「VLAD INN」という看板が出ているので、かつては宿泊施設だったのでしょう。どことなく、『となりのトトロ』に出てくるサツキとメイの家に似ています。

 
もう一つは、旧パンシオナート・ホテル。白壁の5階建てコンクリート・ビルは、日本の公務員宿舎を連想させます。このホテルには一時、日本国総領事館の事務所と総領事公邸が入居していました。ソ連解体後、我が総領事館がナホトカからウラジオストクに再移転した時、当初はこのホテルの4階・5階を使っていたそうです。道路沿いには、ホテル内のレストラン「カピタン・クック」の看板が残っています。当時を覚えている知人から、「結構おいしい店だった」と聞きました。この建物も徐々に荒廃が進んでいて、夜は幽霊病棟のようです。


VLAD INN


旧パンシオナート・ホテル


大連の旧ヤマトホテル:
改装工事が中断中でした。
ところで、NHKは以前、ウクライナ製のテレビドラマ「ニューハチ」をリメイクして「スニッファー」というドラマを放送したことがあります。私は、阿部寛さん演じる主人公・華岡信一郎(はなおか しんいちろう)がお気に入りでした。華岡は、犯行現場に残された匂いから事件の様子をイメージできる特殊能力を持っています。このドラマの影響でしょうか。廃屋をじっくり眺めていると、特殊能力がなくても、かつての人々の生活ぶりが映像として蘇ってくるような気がするのです。                      
T.M.