浦潮だより:大切なことは眼にみえない

令和7年12月15日
祖父の書による看板
滝を眺めながらロビーでお茶

浦潮だより:大切なことは眼にみえない

 令和7年12月15日
 


大谷山荘
 

友人が故郷の山口を訪ねてくると、2016年に安倍総理(当時)がプーチン大統領を招いた大谷山荘に案内することがあります。その際に披露するネタの一つは、「大谷山荘」という看板は、私の祖父の書だというエピソード。へぇーと感心してもらったところでパチリと一枚。良い記念写真になります。
 


露天風呂

大谷山荘から日本海側に向かうと仙崎港があります。かつては捕鯨で栄えた港町ですが、童謡詩人の金子みすゞ(1903~1930年)の故郷としても知られています。26歳で亡くなった彼女の作品は長らく忘れられていましたが、1980年代以降に再評価され、今ではとても人気があり、大谷山荘のエレベーター内にもみすゞの詩が飾られています。私も息子の小学校で子供達への読み聞かせ会に参加した時、みすゞの詩を朗読したことがあります。また、2011年の東日本大震災後にテレビ・コマーシャルがすべて公共広告に差し替えられた時、その一つにみすゞの「こだま」という詩が使われていたことから、さらに広く知られるようになりました。
 
数あるみすゞの作品の中で私の好きなのは、たとえば、「星とたんぽぽ」という詩です。
 
青いお空の底ふかく、
海の小石のそのように、
夜がくるまで沈んでる、
昼のお星は眼にみえぬ。
見えぬけれどもあるんだよ、
見えぬものでもあるんだよ。
 
散ってすがれたたんぽぽの、
瓦のすきに、だァまって、
春のくるまでかくれてる、
つよいその根は眼にみえぬ。
見えぬけれどもあるんだよ、
見えぬものでもあるんだよ。
 
この詩を読むと、『星の王子さま』のキツネの名セリフを思い出します。
「心で見なければものごとはよく見えないってこと。大切なことは眼にみえないんだ。」
実は、毎朝の通勤路に、このセリフをシャッターに書き込んでいるコーヒーショップがあり、目にするたびに素敵だなあと思っています。『星の王子さま』のロシア語訳を読んだのは、ベラルーシ勤務の時でした。ベラルーシ・ボリショイ・バレエの演目の一つに『星の王子さま』があって、本を読んでみたいと思ったのでした。
 
ところで、みすゞが詩を書いていた頃、日本はまだまだ男性優位でした。1926年にみすゞが入会を認められた「童謡詩人会」のメンバーのうち、女性は、みすゞと与謝野晶子だけだったそうです。

リニューアルされた
与謝野晶子歌碑の銘板
 
先日、対日友好協会の方々の発意で、ウラジオストクにある与謝野晶子歌碑の銘板をリニューアルしました。銘板の内容はこれまでと同じですが、ウラジオストクの人々と日本人の交流の歴史を末永く記憶にとどめてほしいと願っています。「春がくるまでかくれてる、つよいその根は眼にみえぬ。見えぬけれどもあるんだよ。大切なことは眼にみえないんだ。」次の世代に、そう伝えてあげたいです。            
T.M.