浦潮だより:マーク・シャガール

令和8年3月6日
窓から見るヴィテプスク

浦潮だより:マーク・シャガール

 令和8年3月6日
 

2月中旬、出張で一年ぶりにモスクワを訪ねました。数年ぶりの大雪が降り、街は真っ白でした。仕事の合間に、たまたまプーシキン美術館で開催されていたマーク・シャガール展を鑑賞しました。シャガールの作品は昔から好きなのですが、彼がベラルーシ・ヴィテプスク市で生まれ育ったユダヤ人だと知ったのは、在ベラルーシ大使館に勤務した時です。今回の展示は、ヴィテプスクの思い出を描いた作品が中心でした。シャガールが住んでいた家の窓からの景色を描いた作品は、当時の牧歌的な街並みが生き生きと表現されています。私自身がそこを訪ねた時の記憶と重なり合い、感慨深いものがありました。

M.シャガール「街の上で」
そして今回、『街の上で』という作品と初めて対面できたのは、大きな喜びでした。私がミンスクを離任するとき、現地職員達が記念に贈ってくれた布バッグにプリントされている作品なのです。実物をまじまじと眺めていると、左隅に小さな人物と山羊が描かれています。なぜ今まで気づかなかったのかな。そういえば独身の頃、デートでシャガール展に行ったなあ。その展覧会はシャガールがパリで描いた恋人たちの絵が中心だったけど、もしあの時の女性と結婚していたらどんな人生だったかな。いやいや、元気な子供達に恵まれて、これまでの人生も悪くないじゃないか。そんなことを思いながら見て回りました。
天野寛子「高知城」「ライオン岩」
天野寛子さんの展覧会より
さて、ウラジオストクに戻ってから、沿海地方絵画ギャラリーを訪問し、日本の刺繍作家・天野寛子(あまの・ひろこ)さんの展覧会を鑑賞しました。緑、青、金色などの多彩な糸を使った大変美しい作風です。御年85歳の天野さんは、これまでもウラジオストクと交流を続けておられ、今回も当地を訪問して講演などを行ってくださいます。
ツングース族のシャーマン
ステッセル中将

ギャラリーを奥に進むと、日露戦争やシベリア・極東の少数民族を描いた版画の展示コーナーがありました。その中に、司馬遼太郎の小説『坂の上の雲』に出てくるステッセル中将の凜々しい姿を描いた作品を見つけました。旅順で戦った乃木希典将軍とアナトーリー・ステッセル将軍の間には、互いを敬う騎士道的精神があったとか。ステッセルは、早期降伏の責任を問われて死刑宣告を受けますが、乃木はロシア皇帝にステッセルの助命を嘆願しました。特赦を受けたステッセルは、後に乃木の殉死を知ると、匿名で香典を送ったそうです。版画に描かれた荒々しい極東の自然風景を想像しつつ、隣国間で積み重ねられてきた人々の交流史に思いを馳せました。

T.M.